機械を介して自動で翻訳できる「機械翻訳」は、翻訳スピードを劇的に改善するとともに、言語による壁を取り除くことに大きく貢献しました。しかしながら、機械翻訳の精度は低く、実用的でないとの声もあります。
そのような中、AIの出現により機械翻訳の精度は劇的に向上し、ビジネスで利用可能なレベルにまで成長しました。今後も技術の進歩に伴い、さらに翻訳精度は向上していくと考えられています。
本記事では、機械翻訳の質を大きく向上させた「AI翻訳」について紹介します。
AIとは
AI翻訳を理解するためにはまず、元となる「AI」を正しく理解することが重要です。AIとは、「Artificial Intelligence」の略で、日本語では「人工知能」を指します。人工知能の定義はさまざまですが、IT用語辞典では以下のように説明されています。
人工知能とは、人間にしかできなかったような高度に知的な作業や判断をコンピュータを中心とする人工的なシステムにより行えるようにしたもの。(IT用語辞典)
人間の生活は、テクノロジーの進歩によって便利になりましたが、機械が行うサービスはルール通りにしか機能せず、応用力がないという問題点がありました。
しかしながらAIは、自律性(人間による誘導なく作業タスクを実行する能力)と適応性(経験から学ぶことでパフォーマンスを向上させる能力)に優れているため、人間の思考により近い応対が可能となります。AIは、人間の思考力と学習能力を備えた、機械によって作られた頭脳とイメージするとよいかと思います。
AIの進化により、さまざまなテクノロジーが大きく進歩すると考えられています。たとえば、応用力が必要とされる接客に携わる接客ロボットや、自動運転技術などが挙げられます。そして、対応力や内包された意図の読み取りが非常に重要とされる翻訳の分野においても、AIが大きく貢献するだろうと考えられています。
AI翻訳とは
では、AI翻訳の説明に移りたいと思います。人力翻訳と対比し、機械が行う翻訳のことを機械翻訳と呼びますが、機械翻訳=AI翻訳ではない点に注意が必要です。
機械翻訳には一般的に、ルールに基づいた翻訳を行う「ルールベース機械翻訳」、大量の対訳データをもとに統計的手法を用いて翻訳を行う「統計的機械翻訳」、人間の脳のニューラルネットワークを模して作られたAIを用いて行う「ニューラル機械翻訳」の3つがあります。
機械翻訳の中でも、ニューラル機械翻訳のことをAI翻訳と呼ぶのが一般的です。これまではルールやデータ通りの翻訳しかできなかった機械翻訳が、自動的に自らのシステムを修正することができるようになったことで、人間のように状況に応じた翻訳が可能となりました。
AIならではの自律性と適応性が備わったことで、機械翻訳の精度は大きく向上しています。
従来の機械翻訳との違い
ではAI翻訳には、従来の機械翻訳と比べてどのような違いがあるのでしょうか。
学習機能の搭載
従来の機械翻訳とAI翻訳の大きな違いは、学習機能の搭載の有無です。ルールベース機械翻訳や統計的機械翻訳では、すでに登録されたルールやデータ、手法などを材料に翻訳を行うため、翻訳の精度を高めるためには、元となるデータベースやシステムの変更が求められます。
その一方で、AI翻訳には学習機能が搭載されており、翻訳の誤訳を指摘された場合には、AI自身が自動でシステムを修正し、次回以降に正しい翻訳ができるように調整します。使えば使うほど、利用者が求める内容に近い形の翻訳ができるようになるのがAI翻訳の特徴です。
文章の自然さの向上
従来の機械翻訳では、あくまでも登録された内容をベースに翻訳を行うため、強引な翻訳になることが多々ありました。しかしながらAI翻訳では、1単語、1文のみを考慮した翻訳ではなく、前後の文脈や、文章全体の方向性を加味した上で翻訳を行います。
たとえば、従来の機械翻訳で長い文章を翻訳した場合、1文1文の意味が切れ切れになり、全体として意味をなさない場合もありました。それに対してAI翻訳では、前後の文との関係も踏まえた上で翻訳を行うため、全体として意味のある翻訳を一瞬にして作ることができます。
専門用語への対応力の向上
従来の機械翻訳は、登録されていない言葉や単語の翻訳が苦手でした。登録されていない言葉を正しく翻訳するためには、その都度登録するか、もしくは各分野に特化した専門データベースを持つ機械翻訳を利用する必要がありました。
しかし、AI翻訳は学習機能が搭載されているため、誤訳を繰り返し訂正するうちにAIが専門用語や固有名詞を学習し、いつの間にか正しく翻訳できるようになります。
人間が繰り返し単語に出会うことで覚えていくように、AIも繰り返し単語に出会い、正しい訳し方を覚えます。これにより、専門用語や固有名詞にも対応でき、利用者の意図により則した翻訳を行うことが可能となります。
それでもまだ人力翻訳は必要か
AI翻訳の進歩により、翻訳の質は劇的に向上しています。しかし、だからといって人間による翻訳、つまり人力翻訳が必要なくなるとは言えません。
その大きな理由として、AI翻訳による翻訳は、人力翻訳の精度にはまだまだ及ばないという点が挙げられます。
言葉は単なる文字の羅列ではなく、さまざまな意味を内包する情報媒体です。AIによって、内包された情報も加味した翻訳が可能になりつつありますが、人間の思いを100%正しく翻訳することはまだまだ難しいというのが現状です。
そのため、機械翻訳の後には、人間によるチェック(ポストエディット)が必須ですし、より高度な翻訳においては人力翻訳に軍配が上がると言えます。
しかし、ある程度のレベルの翻訳であれば、AI翻訳はビジネスにて実用可能なレベルにまで到達しており、今後AI翻訳の進化がさらに進めば、将来的には人力翻訳が必要なくなることも十分に考えられます。
AI翻訳の未来
AIにより機械翻訳の精度が劇的に高まったのは、ここ数年の話です。今後さらに技術が進化していけば、より精度の高い翻訳が可能になります。
現在でも多くの企業がAI翻訳を活用しており、ホームページなどのWEBサイトの多言語化を行っています。質の高い翻訳文を作成する際には、ぜひAI翻訳の活用も検討してみてはいかがでしょうか。